今回は我がロードキングの数あるトラブルの中でも緊急度Aに認定されているスタータークラッチのご紹介。
インプレもかなりの長文になりますが、最後まで読んで頂ければと思いますm(__)m
とある日のこと・・・
近くのコンビにで用事を済ませ、出発しようとスターターを押すと『キュウゥゥ・・・。』と言う明らかに異常なセル音が・・・。
体感的に言うとセルの回り方が弱く、中々エンジンに火が入ってくれません。
数十分前に家から出発した時は何の異常も無かっただけに、突然の出来事に少々困惑。
真っ先に思いついたのがバッテリーの寿命。
この時点で2年半、いつ寿命が来てもおかしくない状態なだけに何の余地も無く思い浮かびました。
特に毎年冬の時期は仕事や気温の関係上、近距離をチョコチョコ走る回数が増えてしまい
セルを回した分だけの消費電力が充電される前にエンジンを切ってしまうという状態になりがち。
(ハーレーのスターターは相当な電力を必要としますので、最低でも20分以上の走行をオススメします。)
『仕方ない、バッテリーを交換(まだ使える状態なら充電)してもらおう・・・。』ということで数日後、ディーラーへ。
担当のHさんには事前に症状を報告しておいたので、到着後すぐに診て頂きました。
『キュッ、キュウゥゥ・・・。』
最初に症状が出てからは悪くなる一方、セルが回りきれずに一瞬止まったような状態にまで悪化していました。
『こりゃもうダメ(交換)かな・・・。』なんて思っていると、明らかにHさんの表情がおかしい・・・。
一言も言葉を交わさぬまま何度もその音を確認、そして落胆したかのような元気の無いトーンで一言、
『スタータークラッチですね・・・。』
(゚Д゚ 三 ゚Д゚)スタータクラッチ!?
初めて聞く言葉に戸惑っていると、Hさんが詳しい状況を説明。
その恐ろしい全貌が明らかになったのです。
それではセルが回る仕組みを踏まえてスタータークラッチの簡単な内容を説明したいと思います。
※詳しい説明は後記写真入りを参照。
スターターボタンを押すとスターター内部にあるスタータークラッチというギアが高速回転しながらプライマリー側へ飛び出し、
ダービーカバーの奥(プライマリー内部)にあるクラッチシェルという非常に大きなギアと噛み合います。
バッテリーが弱くなるとエンジンが回らないのは、クラッチシェルを回すために必要な電力が足りない状態です。
そして今回の状態は体感症状こそバッテリー切れに似ているものの原因が全く異なり、
この2つのギアがお互いに動力を伝えることが出来ず、空回りしている状態なのです。
初めてコレを聞いた時は『それじゃあそのギアを換えればいいのか(・∀・)』
と、かなり軽く考えていたのですがとんでもございません。
厳密に言えば交換で間違っていないのですが、問題はそのギアの位置。
自分はダービーカバーを外すだけで済むのかな?なんて軽い気持ちでパーツリストを見せてもらうと・・・
( ゚д゚)
(つд⊂)ゴシゴシ
(;゚д゚)
(つд⊂;)ゴシゴシ
(゚Д゚; 三 ;゚Д゚)!?
ムッチャクチャ奥に入っていますι(◎д◎)ノヾ
上記の説明も含めて解説すると問題のスタータークラッチは1枚目の36番、対してクラッチシェルは2枚目11番。
この2つがどのように配置されているかというと3枚目のインナープライマリー(25番)の右側中央の大きな穴にクラッチシェル、
その上部の小さな穴から1枚目の37番が飛び出してくる仕組みです。
ちなみに自分が交換したソレノイドカバーが1枚目の38番になりますι(◎д◎)ノヾ
どれほど奥に入っているかお分かりでしょうか、当然ながら素人が手を出せるレベルではありません。
幸い在庫(対策品)があったので即答で修理を依頼したのですが午前11時に作業を始めて頂き、終わったのは閉店間近・・・。
後に話を伺ったのですが、2003年モデル(恐らくそれ以前も)はこの症状が非常に多く、クレーム対象になっていたようです。
しかし中には一度も現れたことが無いという方もいらっしゃるので、多少のアタリハズレがあるようです。
そんな感じで無事に交換したにも関わらず、9ヵ月後にまさかの2度目が発生。
前回の経験が功を奏して大事には至らず無事に治して頂いて帰ってきましたが、やはり一番の問題が一つ。
それは『以前の交換からどうしてこんな短期間に再発したのか』。
普通に考えて9ヶ月サイクルでマトモに走れなくなるようなトラブルが起きるなど、通常ではあり得ません。
それには『トラブルまでの経緯、原因と日常での対処法、再発の可能性』をより詳しく調べる必要がありました。
まずは初期症状から交換についての詳細をお話をしていきたいと思います。
状態は大きく分けて3段階、初期は突然セルが正常に回らなくなります。
厳密に言うとセルの回りが非常に重たくなり、バッテリーが弱ってきた状態に似ているので判別が難しいです。
『キュンキュンキュン』と回っていたセルが『キュゥゥゥゥンキュゥゥゥゥン』と、スロー再生をしたかのような状態になります。
それから更に症状が悪化すると、今度はセルが一瞬止まります。
『キュッ・・・ゥゥゥゥンキュゥゥゥゥンキュゥゥゥンキュゥゥンキュゥンキュンキュンキュン』
と言った感じで、かなり回さないと火が入らないどころかマトモに回ってくれさえしません。
そして手遅れの状態、セルモーターが完全に空回りします。
『キュ・・・キュゥゥゥゥゥウィィィーーーーン!』
まるで手応えが無く、誰が聞いてもギアが噛み合っていない状態だとわかるでしょう。
正直トラウマになりそうなほど嫌な音です、二度と聞きたくありません。
経験から言わせて頂くと、初期症状から末期症状(セルが止まる)までのスタートの回数は約10回。
これはセルモーターの回転数ではなく、始動できる回数なので10回程度はエンジンが始動できると思って下さい。
末期症状が出てから始動が可能なのは約2回、それ以降は完全に空回りするか先にバッテリーが逝くかです。
唯一の対策としてはバッテリー切れと同じく押し掛けのみですが、
こんなデカいバイクを押し掛けなどそう簡単に出来るはずもなく、普通に考えればこの時点でレッカー確定です。
最善策としては初期症状が出た時点ですぐにディーラーに持って行って診てもらいましょう。
バッテリーチェックをしてもらってもバッテリーに異常が無い、もしくはフル充電してもセルの回転が重いならコイツの可能性アリです。
作業時間もプライマリーを根こそぎ外しての作業になるので最短でも半日は考えておいた方が良いと思われます。
正確な金額はわからないのですが、パーツ代のみで¥50,000前後ということです。
続いて直接的な原因は何か?
それはいきなり言ってしまうと単純なスタートの回数なのです。
例えば月に4回ツーリングに行って月に1000キロ走った方と、毎日通勤で乗って月に1000キロ走った方。
同じ距離でもセルを回す回数に圧倒的な差が出ますね。
つまり同じ1日でも通勤、街乗り、ロングツーリングではスタート回数が全く変わってくるということです。
冷静に考えると単純な話ですね。
その中でも特に、ちょい乗り(ショート)は距離に対してセルを回す頻度が一番高いです。
出発時、途中のコンビニ休憩、ガソリンスタンド、買い物、ちょっとした移動etc.
気温やキャブの不調でその都度エンスト(厳密に言うとエンスト後のスタート)させればロングや通勤の何倍にもなります。
そうなると次に重要になってくるのが『出来る限りの事前対処、トラブルの早期発見』になります。
そこで内部の状態を踏まえてスタータークラッチの簡単な仕組みを写真つきでもう一度詳しく見てみましょう。
※ここに書き記した内容に関しては私の個人的な推測が含まれます、心配な方はプロの方にお伺い下さいm(__)m
スタータークラッチは別名『1ウェイクラッチ』(以下1ウェイ)と呼ばれ、その名の通り一方方向にしか回転しないギアのことを指します。
反対方向に回るように作ってしまうと始動に必要な回転力が(反対に回ることで)殺されてしまうためでしょう。
こいつが今回一連の諸悪の根源、飛び出したシャフトは一方方向にしか回りません。
ご覧のようにスターターの裏側からしかアクセスできないので、交換は非常に困難を極めます。
セルを押すと同時にこの1ウェイが凄まじい勢いで回転しながらインナープライマリーの穴から外側に飛び出し、
プライマリー内部・ダービーカバーの裏にあるクラッチシェルという大きなギアと噛み合います。
左の写真の小さな穴から1ウェイが飛び出し、下側のシャフトについているクラッチシェル(右写真)を回します。
1ウェイが直接関わるのはこのギアのみですが、このギアは非常に大きくて重たいです。
下部右側がクラッチシェル、プライマリーと比較するとどれほどの大きさかわかって頂けると思います。
ここからプライマリーチェーンを伝い、前方のフライホイール側へ動力が伝わっているという仕組みです。
あんな小さなギアでこんな巨大なギアを回しているのです、相当な力が必要なのは容易に想像できるでしょう。
分解された状態で空回りしている状況を見せて頂きましたが、本当に凄い勢いで回転しながら飛び出てきます。
指なんかで触れたりしようものなら大怪我するのは間違いないでしょう。
続いて空回りするケースを2パターン書いてみましょう。
自分の場合は2度共に2ウェイ。 つまり本来回ってはいけない方向に回り(力が集約できずに)クラッチシェルを回せない状態。
2つ目にギアの摩耗。
磨耗での空回りは平均で3万キロ以上みたいですが、セルを回した回数に依存しますのであまり参考にはなりません。
3万キロ以上の方に多く見られたという程度の認識で。
ギアの摩耗は殆どが1ウェイでクラッチシェルは耐久性が高く、1ウェイが摩耗している状態でもクラッチシェル側は
荒れたギア面を削る程度で改善されるようですが、どちらにしても1ウェイの交換が必須です。
これが我がロードキングのクラッチシェル、ほんの少し荒れていますがまだまだ問題ないとのことです(*´Д`)≡3
どちらにせよ原因は1ウェイへの負担。
それではどのような場合に1ウェイに負担がかかるのか、という部分を書いていきたいと思います。
1、単純なスタートの回数。
さすがにコレはどうしようもありません、1ウェイにも寿命があるという認識を持つことが最大の事前認知(早期発見)に繋がります。
2、スタートの失敗。
皆様も一度は経験があると思われますが、セルを押すと『ガキンッ!!』と嫌な音が鳴って始動に失敗するケース。
1ウェイがクラッチシェルを回しきっていない時にセルを離してしまい、ギアが上手く噛み合っていない時に起きる音だと思われます。
(なので始動しない。回りきっていれば火が入ると判断したため、このような結論に至りました。)
※特にバッテリーが弱っているときに頻発する症状です。
音から想像するに、1ウェイに相当な負担がかかっているのではないでしょうか。
この音が出る状況は決まって中途半端にスタータースイッチを押したり(エンジンに火が入る前に)離したりした時に起きます。
シッカリスイッチを押し、火が入ったのを確認してからセルを離す!しかし押し過ぎも禁物。
簡単なようで結構難しいタイミングですが、まずはシッカリとスタータースイッチを押しきるのがポイントだと思います。
頭の中では『1ウェイをシッカリ押し出す』、(つまりスイッチをシッカリ押す)ことをイメージすると感覚がつかめるかもしれません。
次にマシンの状況により、更に負担がかかるケースを書きます。
1、エンスト。
これが今回、一番身近でありながら最大の原因ではないかと思われます。
エンストすれば再スタートとなりますので単純なスタート回数、それに伴う負担が急激に増加。
時にはどうしようもない不意のエンストもありますが、
自分で予防できるケース(例えば暖気不足でのエンスト)は出来る限り減らす努力をしましょう。
2、圧縮率。
ディーラーの社長から伺いましたが、コレも負担という点ではバカにできないようです。
圧縮率を上げればその分ピストンを動かすためのより強い力が必要になるのでり、1ウェイにかかる負担もより大きくなります。
自分は圧縮率を上げていないのになぜこういう話になったかと言うと、キャブセッティングを濃い目に振っている車輌は
シリンダー内にカーボンが付着して蓄積され、わずかではありますが圧縮率が徐々に上がっていく傾向にあるとのこと。
コレ自体の解決方法としては、高速で高回転までブン回して内部のカーボンを焼いてしまうというのが理想的のようですが、
やはり一朝一夕で綺麗にはなるわけではありません。
簡単に言うと濃い目のセッティングで走り続ければ、どんなバイクでも圧縮率は徐々に上がってきているということなのです。
コレはそこまで神経質になるような問題ではないようですが、1ウェイにかかる負担が徐々に増えているということです。
最後に再発の可能性について。
我がロードキングは2005年4月15日に3,400キロの中古車で購入。
最初のトラブル発生が2006年2月28日、納車してから約10ヶ月での発生、走行距離12,100キロ(オド読み)。
そして2回目の発生が先日の2006年11月25日、前回の交換から約9ヶ月での発生、走行距離21,700キロ(オド読み)。
2回で平均を取ると9~10ヶ月、若しくは約9,000キロに一度の割合になります。
Hさんに伺ったところ、何度か1ウェイの症例はあったものの自分のようなケースは極めて稀、
ハーレー全体で見てもこんな短期間で再発というのはそう簡単にありえないという答えだったのです。
やはり原因はセルの回数が他の方より多いことくらいしか考えられませんが
私に関してはタイヤやバッテリーと同じく、消耗品と割り切って乗るのが一番の対策のようです( ̄▽ ̄;)
しかし今回のトラブルで1ウェイの全貌、具体的な内容や対処、
トラブルの周期など数えきれない程の有力情報が手に入ったのは自分にとって本当にいい経験になりました。
自分が痛い目に遭わないと頭に入らないってことですね。
メカ音痴な自分にとってこういったトラブルはやはりプロに頼らざるを得ません。
大変な作業だったにも関わらず快く引き受けて頂いたHさん、並びにアドバイスを頂いた社長には非常に感謝しておりますm(__)m
皆様もトラブルには十分に気をつけて楽しいハーレーライフをお送り下さい(´∀`)
・スタータークラッチ
・31516-94
・¥50,000前後