衝撃の出会いからシャドウのカスタムが嘘のようにピタリと止まり、パソコンとにらめっこの毎日。
デスクトップのショートカットアイコンからはそれまであったシャドウのカスタムパーツのメーカが消え
ある大型バイクへの1発リンクやインプレが所狭しと並んでいました。
ディスプレイに表示されたアイコンの下に表示されているのは
ハーレーダビッドソン・ロードキング
あの日のスポーツスターとの出会い以来、加熱の一途を辿ったのは言うまでもなく
それまで渡ろうともしなかった石橋が安全だと判断すると、一気に走り抜ける性格の自分にとって
様々なバイクが混在していた頭の中をロードキング一色に染め上げるのに大した時間は掛かりませんでした。
決意を固め、残るは実物を見るのみ。
しかし、近所のハーレーディーラーを転々とするもロードキングはおろか、ツーリングモデルすらが全く無い・・・。
最初からブラックと決めていただけに、そのチャンスはさらに狭まりました。
そして、この日だけは何があっても忘れることができません。
我がハーレーライフの運命を決定付けた2005年2月1日。
諦め半分で最後の1軒に電話・・・すると今までのディーラーでは聞いたことのない元気な社長の声。
『黒のロードキング?・・・中古が2台、新車で1台ありますよ~』
『ある』という言葉を聞いた瞬間に心拍数が一気に高まり、他に何を話したかも覚えていないほどの興奮状態。
即答で見に行く旨と時間を伝えてすぐに出発。
駐車場にバイクを停めると胸の高鳴りは変わらぬものの、様子がおかしい。
そう、ディーラーに着いた途端に極度の緊張状態になっていたのです。
初めて入るお店だからなのか、それとも初めてロードキングを見るからなのか、とにかく中に入らないと何も始まらない。
決意を固め、ガラス貼りの奥に整然と並ぶハーレーを横目に小さな階段を登り、扉を開けたその瞬間、
ソレはあまりにも突然やってきました。
なんと扉を開けたすぐ目の前に、後に自分が乗るであろう運命のロードキングが我が者顔で座っていたのです。
あまりに突然の出来事に言葉も出ず。
その視線の先にはそれまでカタログでしか見たことの無かったロードキング、初めて見る本物のロードキング。
しかしハーレーとの出会いはどうして毎回こうなるのでしょうか。
待っていたのは『ワァー゜+.(・∀・)゜+.゜ロードキングだぁ~(*´д`*)』と言うような生易しいものではなく、
まさにあのスポーツスターとの出会いを再現させるものでした。
『何なんだ、このバイクは・・・』
カタログの中では他の車種よりも遥かに小さく写っていたロードキングをカタログで毎日見ていた自分は
バイクの大きさやイメージを勝手に作り上げていたのです。
しかし、本物を目の当たりにして絶句・・・太い、とにかく太い。
バイクというよりも、バイクらしき巨大な黒い塊。
俺が今まで見てきたモノは何だったんだ、と思わせるほどの想像を遥かに絶するボリューム。
何よりも、近づくことさえ躊躇してしまうほどの強大な威圧感はもはやバイクの領域ではありません。
しかし、その強大な威圧感の中にも見え隠れする凄く上品で落ち着いた雰囲気。
ジっとバイクを見つめていると、自分に話しかけているような感さえ漂います。
『どんな音がするんだろう・・・』
あのスポーツスターとの出会いが自分をココに導いてくれたのですから、この疑問は当然の結果。
社長と談笑しながらも、タイミングを見計らって恐る恐る聞いてみました。
『コレ・・・(外に出して)エンジンかけてもらうことってできますか?』
すると社長、『ええよ♪』の一言でなんとその場でエンジンをかける準備を始めてくれたのです。
コンッと言う少し鈍い音と同時にヘッドライトが点灯。
社長がアクセルを数回捻捻ってキャブレターにガソリンを送る姿を見てあの時のスポーツスターのタンクが一瞬脳裏をかすめました。
少し間を置き、スターターが押される。
同時に大型トラックのようなず太いモーター音がショールーム内に響きました。
一瞬時が止まったかのようにそれまで賑やかだったショールーム内がシンと静まり返り
皆の視線がこっちに集中しているのが背中越しに伝わりました。
それまで一度すら聞いたことがないようなスターター音、そしてこの静寂で只ならぬ気配を感じて心臓はバクバク。
1度目は失敗・・・同じ動作を繰り返すも、2度目のスタートも失敗・・・。
『ずっと置いてたからバッテリーがダメなのかな・・・』
頭の中で諦めかけていた次の瞬間、
遂にロードキングと言う名の獣がその本性を現しました。
とっさに歯車を連想させるガシャガシャというメカノイズ、有機体の心臓のように強弱をつけて脈打つ不規則なアイドリング。
檻の中で暴れる獣のように今にもフレームから飛び出しそうなほど揺れるエンジン。
社長がアクセルを捻るたびに車体がバラバラになるかのような振動。
騒音規制対応のノーマルマフラー、勿論実際の音量はシャドウのソレよりも遥かに小さかったです。
しかしそれでもなお押し潰されそうな威圧感をどう理解すればいいのでしょうか。
困惑した自分を察知したのか、バイクの側に立っていた社長がそのまま車体を起こし
横に並んでるハーレー達の前にゆっくり押し進めてくれました。
あの瞬間は今でも鮮明に記憶に残っています、絶対に忘れることができません。
そのゆっくり自分に向かって迫ってくる様子は、まさに肉食獣。
腹を空かせた獣が獲物を狙ってジワリジワリと迫ってくるあの感覚、その時まさに自分が獲物になったような感覚。
今にも飛び掛りそうなその異様な威圧感に恐ろしさを感じ、思わず身を引いたほどです。
そして社長に言われるままに恐る恐る跨ると同時に
先ほどまでの凶暴なイメージとはあまりにかけ離れた、高級ソファのようなフワっとした優しいシートの感触。
高性能のエアサスと高い車高、太い車幅も手伝って跨っていると言うよりも宙に浮いているような感覚。
スッと手を伸ばすと、まるで自分の身体の大きさに合わせてくれたかのようにハンドルもフットボードもブレーキもシッカリ届きます。
そして今にも走り出さんばかりに下から突き上げてくるOHV・V型2気筒の鼓動は暴れ馬そのもの。
まさに鉄の馬、鉄馬です。
これがハーレー。
いや、
これがロードキング。
その後、数え切れないくらいの押印をして契約手続きが完了。
ある程度時間が経って落ち着きを取り戻しましたがホッするのも束の間、思い出したかのようにロードキングのトコロへ。
新車と見間違える程のコンディション、それもそのはず走行距離わずか3,400キロ。
前オーナーは3,400キロの間、このロードキングとどんな思い出を作ったのでしょうか。
目の前に新車もあったのですが、勿論選んだのはこのロードキング。
このバイクこそ正真正銘生まれて初めて出会ったロードキング、こういう思い出は後に本当に強い絆を結ぶと信じています。
シートにポンっと手を置くと、かすかに残ったエンジンの熱が冷たくなった自分の手を優しく包んでくれました。
それはこれから共に歩むであろう、新しい門出を祝福してくれるかのようでした。